そもそも「あがり」と「あがり症」の違いとは
「あがり」は脳の防衛的反応
あがりやすい人は、人前で話す度に「あがり」、あがり症を「強化」してしまいます。そのため多くの人が何十年もあがり症で悩み、社会生活が不快なものになっています。
そもそも「あがり」とは何か、皆さまはどのようにイメージされるでしょうか。私は、「あがりとは、人前で話すときに、自分の意思とは関係なく、さまざまな影響が身体に集合して出てしまう状態」と定義しました。
つまり、あがり症の人にとっての問題は、ドキドキなどの身体的な状態なのです。この状態はなぜ起きるのか。ひと言でいえば「脳の防衛的反応」によってなのですが、その背景にどのような仕組みがあるのか、以下に簡単に説明してみます。
【身体の状態は神経細胞の活性化と筋肉の反射】ドキドキしているのは、神経細胞の活性化と筋肉の収縮によって血管が細くなり、体内時計のリズムが乱れた状態です。これらは生理的覚醒と呼ばれる内的反応なのですが、他の人からは(声の震え以外は)分かりません。人によって身体への影響の出方が異なり、ドキドキが強く出てしまう人、声がどうしようもなく震えてしまう人、一時的に息ができなくなる人、頭が真っ白になって言いたいことを忘れてしまう人、頭から流れるほど汗が出てしまう人もいます。しかし、発話後に激しい自己嫌悪に陥ることは、全員に共通しています。自己嫌悪に陥りながら、できなかったことや悪かったところを何度も思い出し、自分を責めては反省します。そして、次は絶対にあがらないと誓いますが、発表当日は前回以上にあがって、さらに深い自己嫌悪に陥ります。これらを何度も何度も繰り返して、自分ではどうにも解決できない
「あがり症」は条件反射、
PTSDと捉える研究者も
あがり症とは、あがったことが記憶のBOXにしっかりとインプットされてしまった、「条件反射」です。あがり症になると、人前で話すことを考えただけでドキドキや手が冷たくなるなどの予期の影響がでますが、加えて本番でもおもいっきりあがってしまい、さらに人前で話すことへの恐怖心が強くなってしまいます。これらの症状をPTSD(心的外傷後ストレス障害)と捉える研究者もおり、私自身もそのように捉えています。そのために、人によってはSAD(社交不安障害)という病気として投薬治療の対象とされていますが、全員がPTSDというわけではない、全員に投薬治療が必要なわけではないことも、承知しています。
【「ドキドキせずに話せた」記憶の上書きが重要】
あがり症の克服を目指し、多くの人が話し方教室に行ってスピーチ力を高めようと努力しますが、スピーチがどんなに上手くなっても、ドキドキなどの状態はなくなりません。
ドキドキしながら「負の学習」をいくら重ねても、あがり症の克服にはつながりません。
必要なのは「ドキドキせずに話せた」「声が震えずに話せた」という「正の学習」「記憶の上書き」です。なぜかというと、人は「記憶」に基づいて未来の行動をイメージ(予期)し、イメージできたことは実現できてしまうからです。
そのために私の「あがり症克服講座」では、「条件反射を遮断する®」話し方と「リズムを整えて話す®」話し方で、最初のスピーチからドキドキせずに話すことを実現しているのです。
それと同時に、メンタルに対する心理教育を行っています。なぜならあがるのはメンタルの問題、話し方はスキルの問題だからです。
人間が複雑であるように、あがり症の克服も、場数やスピーチの練習だけで解決できるほど単純ではありません。あがりのメカニズムや克服への理論、理論を実現するツールは必須であると考えます。
「あがりはリズムの乱れ®」である
私は、話し方教室セルフコンフィデンス®の開設当初から、「場数やスピーチの練習だけであがり症は克服できない」と提唱し、「あがりはリズムの乱れ®」の仮説のもと、克服を目指すための理論とツールを開発してきました。下記でその背景を少しご紹介してみます。
【「自律神経と体内時計」が身体への影響に関与】
多くの人は、人前で話すことを考えただけで胸に圧迫感を感じたり、指先がジンジンしたりといった予期症状が出ると思います。もちろん本番でもしっかりあがって、自分ではコントロールできない状況に陥ってしまいます。
なぜそのような状態に陥ってしまうのかというと、そこには自律神経と体内時計が大きく関与しています。
スピーチやプレゼンという言葉でストレスセンサーである交感神経が優位に働きはじめ、神経細胞の活性化に筋肉が反応して収縮、血管が細くなってドキドキなどの状態になります。自律神経には、ストレスに反応する交感神経とリラックスしたときに優位に働く副交感神経があることは、多くの方がご存知ですね。
では体内時計とは何かというと、この時計は人間だけでなく地球上に存在する全生物がもっている「生命のリズムを刻む」時計のことを指します。
体内時計については、健康番組などでたびたび取り上げられるので、こちらも多くの人がご存知だと思います。
では体内時計は、身体のどこにあるのでしょうか。
脳内の視床下部の視交叉上核、ちょうど目の奥の辺りにあるのが「親時計」です。また、心臓をはじめ、肝臓や腎臓、血管や皮膚など全身の末梢細胞にあるのが時計遺伝子で、「子時計」と呼ばれています。
この親時計と子時計をつないでいるのが、「自律神経」なのです。
【「体内時計を平常心のときと同じ状態に戻す」話し方のツール】
つまり、ドキドキせずに話すためには、副交感神経を優位に働かせて、体内時計のリズムを平常心の時のリズムに戻す必要があるのですが、この理論に基づいて開発されたのが、「条件反射を遮断する®」話し方や「リズムを整えて話す®」話し方なのです。
この2つのツールがあるから、私の講座では最初のスピーチからドキドキせずに話せ、あがり症を克服するための第一歩を踏み出すことができているのです。